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■　私の指輪物語
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指輪が好き。
ということを周囲はあまり知らない。
貴金属とは縁もユカリもない風情の私ですもの。
似合わないのは百も承知。でも指輪が好きなの。

あれは小学３年生の時。
毎日通う駄菓子屋さんに、おもちゃの指輪が売っていた。
紙製の平たい箱に、小さな切れ込みがたくさんあって、
そこにきらきら、飴玉みたいな指輪が差し込まれ、並んでいた。

じっと眺めながら、でも買うのは５円のカレーせんべいと決めていた。
指輪は当時の私にはちょっと贅沢な買い物になる。

指輪には10円の列と20円の列があって、それは歴然と出来が違う。
５万円と200万円のダイヤの違いは、まるっきしわからん私だが
その時、10円の差ははっきりと認識できた。

私は20円の指輪が欲しかった。
赤い丸い玉はぐるりと金色で縁取られ、「フランスだ」と思った。
フランスはアメリカより偉い、と思っていた。
ハローよりボンジュールのほうが「込み入っている」からだ。

１度でいいから指にはめてみたかった。
カレーせんべいで口のまわりを黄色に染めながら
毎日、ただ眺めるばかりだった。

ある日ふと見ると、20円の指輪が、１個だけ10円の列に混じっている。
20円の中でも、とびきり豪華な赤い指輪だ。
心臓がどきどきした。
このまま指を差して「これ下さい」と言えば、
店のおばちゃんは「あいよ、10円だよ」と言うのではないか。
あわよくば、10円で手に入る。
カレーせんべい２枚分はそう惜しくない。

思惑通り、おばちゃんは素直に「はい10円ね」と言った。
おばちゃんの笑顔がまぶしくて、私はうつむいたまま硬貨を渡し、
さっと指輪を受け取った。

指輪は私のものになった。その途端、みぞおちがぞくっとした。

走って帰り、指輪を眺めたけど、ちっとも嬉しくない。
机の引き出しの奥にしまって、１度も指にはめることはなかった。

不正で手に入れたものは楽しめない。実感した。
あれから二度と不正はしない。
最初にした不正をどう感じるかで、人生は変わっていくように思う。

指輪が好き。
再婚する時、「貴金属をあげるのは趣味ではない」という彼が
「エンゲージマウスです」とくれたのは、コンピュータの付属品のマウス
である。「指輪が好き」と言い出せずに、ありがたく頂戴したが、
２センチ弱、落胆した。
しばらくして彼は「やはり指輪を」と言い出した。
２センチが目に見えたのかもしれない。

でもやはりくれたのは「エンゲージマウス」だ。
ハリガネがぐるぐるっと、とぐろを巻いており、その先に
小さなアルミ製のマウスが付いている、手作りの指輪である。
メイドイン彼。
「右手の中指に合わせたデザイン」と誇らし気の彼に
「普通、左手の薬指だよ」と言い出せずに、ありがたく頂戴した。
20円より豪華である。

指輪が好き。
ガラス玉もビーズもハリガネも好き。
指輪は私を女の子でいさせてくれる。
私の中のささやかな甘え、なのである。

●エンゲージマウス（指輪バージョン）をご覧になりたい方はこちら
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http://homepage1.nifty.com/jyk/js4.html
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