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■　ひとりものバンザイ！
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　　　『ターン』10月13日〜全国ロードショー
　　　【監督】平山秀幸　【出演】牧瀬里穂、中村勘太郎、倍賞美津子

とても怖い。怖くて、ものすごく綺麗。
生きる勇気がわいてくる映画だ。

北村薫原作の『ターン』。小説を読んだ人も多いだろうが
私は全く予備知識がないまま映画を観た。
27才の女性が、事故に合う。
すると時間が巻き戻る。目を覚ますと、事故に合う前日なのだ。
それから彼女は毎日同じ日を繰り返す。
１日が終わると同じ日が戻ってくる。毎日毎日ターンする。
進まない。しかもそこには自分しかいない。

気の遠くなる孤独が、シンとした画面から伝わる。
彼女は町に出て、鈴虫のＣＤを買う。
誰もいない店で律儀に金を払う。
ラジカセを庭に置き、虫の音をベッドで聴く。

車１台通らぬ道を赤信号で立ち止まる。
誰が見ていなくても、彼女はひとりで、きちんと、律儀に
自分を律して生きて行く。
主役を演じる牧瀬里穂が、すごい。
背筋を伸ばし、唇をきゅっと結び、賢明に孤独と戦う姿がすばらしい。
彼女のショートカットと同じくらい、潔い。

この映画を観た女性の何人かは、その足で美容院に行き、
発作的に髪を切るんじゃないか。
それくらい牧瀬のショートヘアには説得力がある。
『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグ以来の、できすぎショートである。
私は「自分の顔の身の程」を知っているため、挑戦したことはないが、
一度はやってみたい。ま、良識ある美容師にとめられるだろうけど。
頭蓋骨に自信がある人は、やってみてほしい。

「雨です！180日ぶりの雨です！」と言って、彼女はヒトリ庭ではしゃぐ。
ずぶ濡れになり、素足をどろどろにして、跳ね回る。
庭木の枝にはシャワーがしつらえてある。
彼女は自分が作った雨に濡れながら、初めてべそをかく。
孤独の限界、というところで１本の電話が鳴る。

この後はもう、観ていただくしかない。
この設定は、言ってしまえばＳＦだけど、恐怖は、現実社会にもある。

私にはこんな経験がある。
町を歩いた。その日はすごく大勢の人が忙しそうに歩いていた。
「こんなに多くの人がいるのに、どうして私はひとりなのだろう」
突然大きな孤独に襲われ、足がすくむ。
「私はここにいる！ここでこうして生きている！」と。
叫びたい衝動にかられる。

家族がいても、友人がいても、孤独を感じることがある。
それだけ私は孤独が怖い。孤独に弱いのだ。
自分の発する音しか聞こえない世界にいたら気が狂ってしまうに違いない。

ひとりで住み、友人はいるけど、もたれ合わず、
きちんと自分の世界を持つ人が、現実にはたくさんいる。
ムーミン谷のスナフキンみたいな「強い孤独の人」は、おとぎ話ではなく、
ちゃんとそこここにいるのだ。

『ターン』の彼女も、時々崩れそうになりながら、
孤独を克服しようと前を見る。
ひとりでも、生きる意味を見つけ、食べる時は「いただきます」と言って、
楽しい時にはちゃんと笑って、生きている。
それは「自分を大切にする」という人間の基本的な生命力だと思う。

彼女に拍手を送りたい。
ひとりできちんと生きている人たち全員に、同じ拍手を送りたい。
孤独を克服して生きる人は、優しくて強くて、かっこいい。

ナカナカそういうふうに生きられない私だけれど、
せめて１本の電話がかかるまで。恥ずかしくない自分でいたい。


●できすぎショートをご覧になりたい方はこちら↓
http://homepage1.nifty.com/jyk/js6.html

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